食事の前後に起こる胃の痛み”ときには七転八倒するような激しい痛みのことも!”、胃もたれ、胃膨満感、ムカムカ感、胸焼け、あるいはゲップなど様々な症状があるにも関わらず、内視鏡で検査しても胃の中に何も異常がみつからないというケ−スがよく経験されます。これは機能性胃腸症(FGIDs)と呼ばれ、職場や家庭内などで生じる精神的ストレスと関連して起こることがよく知られています。特に近年の成果主義の導入による競争社会の到来、IT化などによる精神的負担の増大などストレス社会が進む中で、多くの人が一度はこの機能性胃腸症を経験しているものと考えられます。
この疾患は命に関わるような重大な状態に陥る心配はありませんが、胃の痛みや不快感のために仕事の能率が落ちたり、食事が思うように食べられなかったり、あるいは睡眠がうまくとれないなど、日常生活に支障をきたすようなレベルの症状を示すことがあります。
機能性胃腸症の診断は決して簡単なものではありません。患者様の症状や経過を詳細に検討する必要がありますが、診断の目安としてRoma V診断基準と呼ばれるものがありますので、症状と診断基準を照らし合わせながら診療を進めていきます。最終的には胃カメラや超音波検査などで重大な消化器疾患がないことを確認します。 Roma V診断基準
1)持続性あるいは反復性の上腹部の痛み、あるいは不快感
2)胃カメラなどの検査で症状に該当する異常がみつからない
3)排便により症状は改善しない、便通の異常が伴ったりすることはない
気をつけておかなければいけないのは、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、あるいは胃がん、膵がんなどの消化器悪性疾患の場合にも同じような症状を示すことがあるので、食生活に問題のある人、あるいはがん好発年齢に達している人、がん家系の人、異常に体重が減っていると感じている人は、まず胃カメラや超音波検査、血液検査を受けておくことをお勧めいたします。
多彩な症状に対応するため色々なクスリの組み合わせを検討する必要性があります。
1)潰瘍様症状:制酸剤(H2ブロッカ−、プロトンポンプ拮抗薬)、抗不安薬
2)運動不全様症状:制酸剤(H2ブロッカ−、プロトンポンプ拮抗薬)、抗不安薬、消化管運動賦活薬、漢方薬
3)非特異型:制酸剤(H2ブロッカ−、プロトンポンプ拮抗薬)、抗不安薬、抗うつ剤、漢方薬
機能性胃腸症の症状、特に運動不全型と非特異型は本当に様々で、一回の診療でピタリと症状にフィットする薬を選ぶことの難しい疾患です。訴えの多い方は西洋薬だけでは満足いくような改善が得られず、漢方薬を処方することが多くなります。症状に最も効果的な組み合わせとして西洋薬と漢方薬を併せて処方することも珍しいことではありません。
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